■会社概要

商号   スタイレム瀧定大阪株式会社
代表  代表取締役社長 瀧 隆太
創業  1864年
設立  2001年8月1日
従業員数 527名(2022年2月現在)
事業内容 婦人・紳士服地、婦人服・紳士服、雑貨、寝装・寝具、繊維原料・原糸等の企画販売

■取材日:2022年6月8日

まずは一歩 踏み出してみることで見えてくることがある


創業以来150年超、「当たり前を脱ぐ。挑戦を着る。」をスローガンとして常に挑戦を重ねてこられたスタイレム瀧定大阪株式会社さまの取り組みについて、経営企画本部 業務推進部 環境品質管理室長の森田芳弘さまにお話を伺いました。

■SDGsアクションの取り組みのきっかけは?
海外のお客様に生地を提案させていただいている中で、5~6年ほど前から環境に配慮した商品の要求が増えてきたというのがきっかけです。それを受けていく中でそういった商品を企画し提供する必要性と責務を感じるようになりました。
振り返ってみると、SDGsは2015年に採択されたものですが、当社ではそれ以前よりサステナビリティに取組んでおりました。しかし取り組む形が明確にあったという訳ではなく、欧米の得意先からの要望に合わせて対応していた状況でしたので、2019年に専門の部署である環境推進室を立ち上げ、組織として本格的に対応するようになりました。
そして2021年2月1日にサステナビリティに対する5つの重要課題(マテリアリティ)を表明し、SDGsの目標を当てはめていきました。ただ、環境推進室を立ち上げた時点では個人的に課題意識はほとんどなく、しかも配属されるとすぐにSDGs、GOTS、GRS、RWS・・・正直何を意味しているのかさっぱり理解出来ませんでしたし、それをどのように事業に落とし込めばいいのか非常に悩みました。
最初はSDGsを理解する事から始めました。まずは17種類の目標に紐づく169のターゲットと232の指標を読み込み、その上で自社で何ができるのか、自社の事業とどう関連するのか、という事を考えました。そしてマテリアリティを発表した際にも、その内容がSDGsにどのように紐づくのかという意識を持ちながら事業活動を始めました。分からない事だらけでしたが、まずは一歩踏み出してみる、少しずつ進めてみることで見えてくることがあるという事を実感しました。

サスティナビリティに対しての方針

■御社はSDGsに対してどのようなことに取り組んでいますか?
環境や社会に配慮したテキスタイルとマテリアルを「ECOARCH®︎(エコアーチ)」と総称し展開していますが、これが基軸となっています。それぞれ根拠を確認しながら活動しています。

ECOARCH®︎ ロゴ

①環境配慮
無水染色やインクジェットプリントの積極的な採用、BCIコットンのような農家を支援し、トレーサビリティが確保されている取り組みの推進、生分解性素材やバイオマス原料の活用など、環境に配慮したものづくりに積極的に取り組んでいます。

②オーガニック
オーガニック原料から環境に配慮した方法で製品をつくるための認証であるGOTS認証とOCS認証を取得しています。もっと深く進めたいと考え、インドの綿農家と契約し、オーガニックコットンを一から育てる「INDIA ORGANIC COTTON PROJECT」を立ち上げています。インコンバージョンのコットンを含めて綿農家の支援に繋げています。

③森林保護
FSC認証を取得しているレーヨン素材の活用や、カナダの森林保護NGO「Canoppy」のThe Hot Button Reportなどを参考に、それぞれの根拠を確認しながら活用しています。今期、FSC認証も取得しました。

④リサイクル
環境に配慮した方法でリサイクルされた製品である事を証明するGRS認証やRCS認証を取得しています。また、イタリアの再生ウールなども採用しています。他にもリサイクル原料の証明書が発行できるのであれば、それを根拠に進めています。そして、廃棄する衣類などのポリエステル繊維を集めて、培地化し土にして緑を育てる「PLUS∞GREEN PROJECT -緑を増やす、未来へつなぐ-」を推進しています。当プロジェクトで取り扱うポリエステル繊維リサイクル培地を「TUTTI®」というブランドで展開しています。水捌けもよく、土ではないので虫も寄りにくい、基本的にはずっと使えるという特徴があり、且つ、廃棄する場合には固形燃料化が可能です。「TUTTI®」を使ってサステナビリティへの取り組みを体験していただくワークショップも実施し、たくさんの親子に参加いただきました。

⑤動物愛護
当社としてはウールの取扱いが多く、ウールの原料から最終製品に至るまで、動物愛護や環境配慮の観点でしっかりと管理されていることを確認できるRWS認証を取得しています。動物素材の調達においては搾取がまだまだ多いと認識し、アニマルウェルフェアや多様性を意識して取り組んでいます。

SDGsの取り組みは完璧を求めるといつまでも進まないと思います。まずはやってみて、それから取り組みのレベルを少しずつ上げていくこと、そしてコミットして、そこに向かっていく事が重要だと思います。

商品にSDGsのマークをつけるのではなく、会社として発信しよう


■現在の取り組みは17テーマの内、どの番号に該当しますか? 五つのマテリアリティに対してそれぞれ紐付けています。

①未来を生み出す人材をつくる

②持続可能なサプライチェーンをつくる

③社会や環境に配慮した商品をつくる

④新たな事業やサービスをつくる

⑤地域社会との持続的な取り組みをつくる

■SDGsへの取組みにより、どのような変化がありましたか?
3年程前、社員に「SDGsって知っていますか?」という問いかけに手を挙げた人は実は一人だけでした。その後、販売している商品に対して確認依頼が出てくるようになってきました。今では展示会サンプルの企画段階からエコアーチ申請が上がってくるようになってきています。これは商品企画の段階から環境を意識したものづくりをしていこうという変化だと感じています。その結果がSDGsに結び付いています。
また、社外との連携が増えたことも大きな変化です。社外の皆様に向けて当社の取り組みを説明する機会が増えてきました。アパレルのSDGsの対応も進んできていますし、依頼を頂いた場合は情報を共有させてもらいながらお互いが進化できるよう取り組んでいます。仕入先も得意先も繋がっていけばいいと感じます。大手の海外アパレルがコミットしだしていますので、我々の商品を提供することで消費者に思いが伝わることは、とても良いことだと思います。
さらに時代も変わってきている気がしています。今までは商品自体の訴求で良かったものが、その商品の先にある企業の考え方が問われるようになってきたと感じています。会社としてSDGsについてどう考え、どういうことに貢献したい思いがあるのか。例えば、店頭での商品回収でも、不要になった服をリサイクルして循環したいので回収させて欲しいというような発信ができるようになると思います。
SDGsはモノだけではなくコトが要素としてすごく大きい。消費者は値段とクオリティーを前提に、こういった理念と考え方をもって環境に配慮して作られた服であるという、それを感じるストーリーが商品を選択する一つの要因になってきています。 実はコットンがオーガニックではなかったとなれば、商品のみならず会社自体がダメという烙印を押されかねないので、サステナビリティを訴求することに対するリスクがかなり増してきていると感じています。

その行動がSDGsにどう貢献しているのか


■SDGsアクションの推進について課題と感じていることはありますか?
社員の理解度をどの様に上げていくのか。自分事にしてもらうにはどうすればいいのか。今やっている業務がSDGsにどう繋がっているのかを理解してもらう必要を感じています。今、エコバックを持っている方は多いですが、エコバックをどれだけ使ったらどういった事に貢献できるのか、それを知ることの大切さを感じます。この業界にも同様の問題や課題があり、またそれがサプライチェーンのどの部分にあるのか、どのようなアプローチが出来るのかが、結果としてSDGsに繋がると感じます。

■SDGsの推進に際し、関西ファッション連合に期待することはありますか?
製品のライフサイクル全体における環境負荷を定量的に評価するライフサイクルアセスメント(LCA)の情報提要が必要になってきだしています。また、GHGプロトコルイニシアチブが策定した温室効果ガス排出量の算定基準を元に算出が出来ますが、全産業向けのためと繊維業界のサプライチェーンの複雑さもあり、正しい排出量の算出と削減が難しいと認識しています。
関西ファッション連合さんにお願いしたいのは、その中身について調べていただき、各社が活用できるよう共有して欲しい。当社も勉強しながら理解を深めておりますが、読み解きには時間もかかり皆さんのお力添えを頂きたいと思っています。この難解な状況を理解している人がいるのといないのとでは全然違うと思います。常に情報をキャッチアップして共有していただけると助かります。

■取材者あとがき
エビデンスとトレーサビリティをしっかりと確認された上でSDGsへの取り組みを標榜されている姿勢は、正にSDGs時代の企業のあるべき姿だと感じました。LCAやGHGプロトコルなど、時代の要請に合わせた取り組みが求められていますが、そこに向かう意志と行動力には非常に感心しました。取材協力ありがとうございました。