■会社概要 商号 岩下株式会社 代表 代表取締役 岩下 眞彰 創業年 1969年11月 従業員数 80名(HPより) 事業内容 ベビー用品の企画・製造・販売 ■取材日:2021年 4月 22日
意識することで社内の雰囲気も変わり、原価率も下がる 悪い事はひとつもない
創業当時から赤ちゃんのことを第一に考え、安心・安全・快適を追求し、生地から染色・プリント・縫製・仕上げ・検品に至るまで全てを日本国内で一貫して生産されている岩下株式会社さまの取組みについて、代表取締役の岩下眞彰さまにお話を伺いました。
■SDGsアクションの取り組みのきっかけは?
SDGsというキーワードということであれば、2019年12月に開催されたKanFA理事会後の講演会で帝人フロンティア株式会社 日光社長(当時)の取組事例のお話を聞いて、SDGsに対して意識していかなければならないと感じたのがきっかけです。
■御社はSDGsに対してどのようなことに取り組んでいますか?
① 化学繊維より環境に優しく再利用も可能なコットン100%
コットンに合繊を混ぜるとリサイクルしづらく、お客様のご要望もあり、できる限りコットン100%の商品を企画しています。
② 生地ロス削減を考えた生地作り
肌着用の生地は和歌山で編み立てていますが、ニッターさんにも協力していただき、当社での裁断時の廃棄生地を極力削減するために生地巾の設定等、効率的に編み機を調整してもらっています。また、ニッターさんも編み立てが終了した際に余った糸は廃棄していましたが、糸を廃棄しなくてすむように編み立て数量の調整も行っています。
③ 運送方法の変更と主力の染色工場を熊本県に拘り、移動距離を短くしてCO2削減
生地の輸送方法をトラックからJR貨物に変えました。弊社の縫製工場は熊本県にあるのですが、編み立てた生地を和歌山県から熊本県の染色工場までJR貨物で運んでいます。出来る限りCO2の排出量を減らすために、コンテナが満杯になるタイミングを計算して運んでいます。CO2の排出量はトラックと比較して約1/13の量に削減可能です。(JR貨物のホームページ記載)
④ 働きやすい環境づくり
工場は女性が多いので「生地が重いという意見がでれば軽くなるよう改良する」、また「生地を運ぶのが大変という意見がでれば延反機までの移動をサポートする」といった仕組み作りを行い、働きやすい環境づくりを目指しています。
⑤ 歩留り改善によるロス削減
裁断をする際にCAD・CAMを活用し、型紙の配置を工夫することで、廃棄する生地(裁断屑)が極力少なくなるようにしています。また、営業にもなるべく同じ生地で提案するように指示しロス削減に努めています。歩留りを良くして作ったものを的確に使っていくことが大事だと思います。
⑥ 裁断後の処分生地のリサイクルを徹底
裁断屑を再利用できる粉砕業者と取り組み、通常は廃棄される裁断屑を手袋等の素材にリサイクルしています。裁断屑を運搬する際の段ボールも勿体ないので、通いの袋でやりとりをしています。これには運送業者さまにも協力を頂きました。
⑦ 生産時に発生する紙材料の再利用に努力
工場では紙や梱包材など燃えるゴミも多く、燃やさずに再利用する取り組みを5年ほど前から始めました。今も継続しています。当時、廃棄していた量は毎日軽トラック1.5台分ほどもありましたが、今は燃やさないように努力をしています。
そういった活動から従業員の意識も変わってきました。当初はゴミ袋に入れるために廃棄物を折ったり小さくしたりする作業をしていましたが、無駄な事をしないように皆で考えようと繰り返し伝えていった結果、皆が自分たちで考えて無駄を無くすよう取り組みだしました。今は無駄な作業も減り、非常に喜んでくれています。
製品も汚れないように紙で梱包していましたが、梱包せずに折りたたみコンテナを活用して持ち運ぶようにしたところ、紙を使わずに済むことで作業効率が向上したと喜んでいます。
⑧ 女性の活躍できる職場づくり
ベビー用品を扱う企業として、従業員に対しても妊婦さんやママさんに、より良い環境で働いていただけるよう産休・育休を取得しやすくしています。また、産休からの復帰後も十分活躍できる場所を用意して対応しています。
そのため、当社は女性比率が約80%と高く、女性が活躍できる企業です。
■環境、社会、経済の中での重点と考えているのは?
環境が重点と考えています。洗浄時に使用する水を削減する、排水時に不純物を流さない、CO2を削減する、等に意識を高めて取り組んでいきたいと考えています。
普段の業務の中から一生懸命考えることが大事
■どの部署がSDGsの活動を推進していますか?
SDGsアワードでジオン商事様が勉強会ということを強調されておられました。やはり知識が無いと継続できないと思います。どのような形であっても皆を巻き込むことは重要だという思いから、工場も含め、全部署から代表者に参加してもらう勉強会を開催しようと考えています。その考え方や活動を世の中に発信していくために、ブランド事業部が中心となって取り組んでもらいたいと思っています。
■社内の従業員や社外の取引先をうまく巻き込む工夫は?
まずは従業員の知識向上から始めたいと思います。そのために、各部署の代表者が参加する勉強会を開催し、その後、各部署の意識を高めていくような取り組みを進めていきます。知識が無いと得意先も巻き込めません。まずは自分たちが知識を身に付けた上で、取引先の知識に合わせた形の提案をしていかないと何も変わらないと思います。
ですが、私たちもまだまだです。自分たちが理解できていないと社外の人には間違いなく伝わりませんので、自分たちが主体性を持って話せるように取り組んでいきます。
■活動の推進が難しいと感じている点はありますか?
今は活動を推進している事を伝えれば問題ありませんが、これからはそれを数値化して伝えていくことが必要だと考えています。ただ、数値化する方法は難しいため、それが今後の課題であると認識しています。
また、もう一つの課題は、オーガニックコットンの活用方法です。オーガニックコットンの生産量は非常に少なく、価格が高騰しています。オーガニックコットンは素晴らしい取り組みの中で生産された素材だと思います。 ただ、残念ながら日本の市場ではオーガニックコットンは肌に優しく体に良い、だから価格が高い、というイメージが先行していると思います。そのため、オーガニックコットンに拘らず、フェアトレードの活用や環境に優しい糸を使っていくことも重要であると考えています。
フェアトレードを意識したものづくりに拘りたい
■2030年に向けて今後目指すべきものは?
コットンを繰り返し使う、所謂リサイクルコットンの仕組み作りを目指したいです。それと無農薬による素材の活用を目指していきたいと考えています。ただ、2030年以降の環境変化も見据えて、オーガニック以外の取り組みも必要になってくると思いますので、今から模索していきたいです。
■これから関西ファッション連合に期待することは?
KanFAでも見える化や共有化が重要ということで事業を推進されていますが、今まで以上に共有できる機会を作っていただきたいです。スポーツ界で活躍されている方々も今までは公表してこなかった練習方法を配信する等、見える化を推進したことで、スポーツ界全体のレベルアップに貢献している事例もあります。情報を取られるということよりも一緒に磨いていくということを意識して、私たちが気付くことのできる環境を作っていただきたいと思います。
また、多くの方に組合活動に参加していただくためにも、新しい目線で情報を発信していただくことも重要だと思います。
■取材者あとがき
得意先だけではなく運送会社や粉砕業者をも巻き込んで、取り組みの主旨を説明され理解してもらいながら一緒になって取り組まれている姿勢は、「誰ひとり取り残さない」というSDGsの理念そのものを体現されていると感銘を受けました。無駄なことは無くしていくという岩下社長の考え方は、持続可能な経営に直結していると感じました。取材協力ありがとうございました。