■会社概要
商号  増井株式会社
代表  代表取締役社長 盧 杰
創業  1909年(明治42年12月1日)
設立  1951年(昭和26年6月11日)
従業員数 39名 ※2024年7月現在

主な事業内容 繊維原糸の輸入・販売、高付加価値繊維製品の供給、オリジナル生地、ファッション雑貨の販売

取材日:2024年 7月 19日

1本の糸からより良い世界に変えていくために


心の豊かさと持続可能な世界を目指して。創業115年を迎え、さらに柔軟に進化する増井株式会社のグループをあげての取り組みについて、増井株式会社 第二営業部部長・タシケント事務所所長の時田さまにお話を伺いました。

右:代表取締役社長 盧杰様
左:第二営業部部長・タシケント事務所所長
  時田知昇様


■SDGsアクションの取り組みのきっかけは?
SDGsに取り組む意義は地球環境への貢献はもちろんですが、働き方も重要です。これから入社する人は学生時代にSDGsを学んでいることと、会社のためというよりも自分のやりたい事を実現するために働くといったマインドの方が多いことから、若い人にとってより魅力のある企業にしたいと考え、弊社では2021年に社長発案によりSDGsプロジェクトチーム(チームリーダー:時田さま)が発足しました。これは増井株式会社だけの取り組みではなく、株式会社マスイホールディングスとしてプロジェクトを実施することで、より広範囲な分野でのサステナブルな活動を行うことを目指しております。グループ会社から若手を中心にプロジェクトチームが組まれ、社是である「同気相求」(どうきあいもとむ)・「以和為貴」(わをもってとうとしとなす)の考え方を基に、マスイグループとして世の中のために何ができるか、私たちが存在していく意味はどこにあるのか議論を重ね、同年10月に『紡ぐ未来 – 1本の糸からできること – 』をテーマに据えた『マスイグループSDGs宣言』が完成しました。

「サマルカンダリア = 世界で最も優しいコットン」に
それはコットンの売買において「常に模範である」ということ



■御社はSDGsに対してどのようなことに取り組んでいますか?
① サステナブルな糸、生地、製品の開発を行い、地球環境の向上に貢献する
SDGsプロジェクトチームでの議論を中心に、具体的な取り組みを推進しています。

■ 生分解性素材の活用
当グループの基幹商材であるレーヨンフィラメント「ホワイトマウンテン®」「プラチナホース®」はパルプから作られた天然素材です。土に還り、生分解性のあるこの素材を生かし、様々な用途に使用できるよう応用糸・複合糸の開発を行っています。
地球に還る繊維:生分解性の糸(レーヨン)

■ リサイクルポリエステルの供給
合繊繊維のポリエステル分野では「ECOLINK®」を掲げ、ペットボトル由来のリサイクルポリエステルの供給を進めています。2020年にはリサイクルポリエステル糸を国内で染色し、66色で展開する「ミコルトーン」を発表しました。

■ ウズベキスタン綿糸「サマルカンダリア®」
マスイオリジナルコットンであり、「世界で最も優しい。そんなコットンを、目指そう」をコンセプトに、品質がよく児童労働もない、環境に配慮した綿花生産を実施しているウズベキスタン綿糸「サマルカンダリア®」を2016年に発表。現地の産業発展と教育支援に力をいれています。
サマルカンダリア®️コットン〜紺碧の約束〜(イメージ)

②世界中のパートナーやその国々に住む人たちの生活を豊かに
弊社は繊維商社という位置づけのもと、多くの国内外の企業とビジネスを行っています。私たちに携わる全ての人たちの生活が豊かになるような社会を目指し、各国のメーカーに独自の調査を行った上で、同じ目標を共有できる企業と取り組みを行い、作る人・使う人の間に立って貿易を行うことで社会の役に立ちたいと考えています。海外の生産国には経済的に発展途上な国も多くあり、生産に関わる利益を搾取しないよう、極端な値引き要請や買い叩き等は実施せず、適正な価格で輸入を行うフェアトレードを実施しております。

③働く人たちのやりがいを大切に、共に成長できる会社づくり
私たちは、働きがいを最も重要視しています。仕事は人があってこそ成り立つものであり、意欲がなければその意義を十分に発揮することはできません。業務には熱意が不可欠であり、マスイグループでは自分自身の成長、働きがい・やりがいを感じて仕事できる環境を作ることが会社の成長にも繋がると考え、有給取得率80%以上、人事評価制度の透明化など、全社員が活躍できる取り組みを行っています。社員のやる気を引き出すような仕組み作りにも取り組んだ結果、職場の環境改善にも繋がり、健康経営優良法人に認定されました。
健康経営優良法人 認定証

④ウズベキスタンで日本語を学ぶ現地の子供たちを応援する「サマルカンダリア®教育支援プロジェクト」
マスイグループのオリジナルコットン「サマルカンダリア®」をウズベキスタンで生産し、現地の経済の発展をサポートすること、そしてウズベキスタンで日本語を勉強する現地の子供たちへの支援を行っています。 やはり子どもへの教育が一番大事だと感じていて、将来を支える子どもたちが明るく楽しい生活を送れるよう支援できないかと考えていました。
親日国であるウズベキスタンには日本語学校が多くありますが、実際に通うとなるとたくさんのお金が必要になります。そこで弊社では、「生きていくこと」に精一杯で勉強がしたくてもできない子供たちの将来が希望に満ちたものになるように、日本語と日本文化を無料で学べる子どもが通う日本語教室「サマルカンダリア・ジャパンアカデミー」を現地に設立しました。この教室はサマルカンダリアコットンの売上の一部を使用して運営しております。
特に日本の文化を楽しく学びながら知ってもらいたいと考えており、折り紙や習字をしたり、みたらし団子を作ったり、歯磨きの習慣を理解してもらったりしています。
日本を憧れの国と感じているウズベキスタンの子供たちが、毎日楽しく日本語を使って学んでいる姿を見ることは本当に嬉しく感じております。さらに学校や生徒数を増やしていけるよう今後も継続して支援したいと思っています。

サマルカンダリア・ジャパンアカデミー

■現在の取り組みはどのテーマに該当しますか?


教育を重要視する。会社が持続可能であり続ける




■SDGsへの取り組みにより、どのような変化がありましたか?
社内の変化としては、以前は全体的にSDGsへの意識が高くはなかったのですが、特に営業担当者の商品開発への意欲が非常に高まったと感じております。SDGsへの意識が社内に広がるにつれて、サステナブルなものづくりをマスイのオリジナルブランドでやってみようという流れができました。展示会や商品開発を通して、失敗しても良いのでとにかく自分で考えてチャレンジしてみるという組織風土ができているように思います。主体性を大切にしていますが、失敗することを不安に思っている社員には自身の失敗談を話して励ますこともあります。
社内の意識変容への取り組みは展示会への出展です。展示会で発表するとなれば、展示内容や表現方法などもしっかりと考えるようになりますし、それを議論してさらにブラッシュアップしていく、そういう機会にするため、従来と比較して展示会への出展機会が増えています。
また、社外でも良い変化はあります。弊社は糸の問屋の立場や、素材メーカーの代理店の立場が中心ですが、開発したサステナブル素材について様々な発信を進めていく中でメディア等を通して事業内容を知っていただく機会が増え、これまで以上に業務範囲が広がっていると感じています。

■SDGsアクションの推進について課題と感じていることはありますか?
世の中の大きな流れはSDGsへと向いていますが、まだまだ日本ではその意識が低いように見受けられます。国をあげてサステナブルな製品が手に取りやすくなるような施策があれば良いのですが、現時点ではサステナブルな衣料や雑貨は基本的に通常の製品と比べて価格が高くなりますし、日本市場の状況では消費者は価格が安いものを優先して手に取ります。「世界の環境よりも自分の生活が大事」という意識はどうしても付きまとってきます。いかにこれからの地球環境の保全や教育が大切であるかを明確にしていき、100年後の世界が現代の人々の負債で困らないよう、次の世代につなげていくことの大切さをすべての人々が理解していくことが大事だと考えています。
また、企業で働く人間にとって、「働きがい」はますます重要なテーマとなっています。企業は単に利益を追求するだけでなく、いかに社会に貢献し、その仕事が自身の生きるテーマと重なることで成長し、日々を充実させられるかが問われています。そうした環境を整え、社員が働きがいを感じられる会社にしていきたいと考えています。

■SDGsの推進に際し、関西ファッション連合に期待することはありますか?
弊社はこれまで繊維商社として活動してきました。この数年はサステナブルな取り組みを強化し、サステナブルな商品開発に加え、弊社で働く人々やパートナーが明るく充実した仕事ができるような環境づくりにも注力しています。また、サマルカンダリア教育支援プロジェクトや、コットン産業の闇(児童労働問題)の解決に向けた取り組みも推進しています。
しかし、これらの活動は一企業の努力だけでは限界があります。そのため、弊社の商品を多くの方々にご使用いただくことで、活動の輪が広がると考えております。
これらのサステナブルな取り組みを、ぜひ日本の繊維業界の皆様にも発信し、ご支援いただけることを心より願っております。

■取材者あとがき
創業115年の歴史を背景に持ちながらも、時代の変化に柔軟に対応し、環境や社会に対する責任を果たすべく先進的な取り組みを進めておられます。その活動は、社内では働き方の改革、社外では多くのパートナーとの輪を広げながら、さらには国際的な連携も通じて、企業としての信頼性とブランド価値を大きく向上させています。まさにSDGsの目指す姿がそこにあるように感じました。取材協力ありがとうございました。