商号  伊藤忠商事株式会社
代表  代表取締役会長CEO 岡藤 正広
創業年 1858年
従業員数 4,319名
事業内容 繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、金融の
     各分野において、国内、輸出入および三国間取引を行うほか、国内外に
     おける事業投資など、幅広いビジネスを展開

■取材日:2021年 2月 22日

近江商人である創業者の想いを受け継ぎ、事業を展開


繊維、機械、金属、エネルギー、化学品、食料、住生活、情報、金融の各分野において幅広いビジネスをグローバルに展開されている総合商社の伊藤忠商事株式会社さまの取組みについて、総本社 サステナビリティ推進部の黛桂子さま、大橋結実子さまにお話を伺いました。

■SDGsアクションの取り組みのきっかけは?
伊藤忠商事は、近江商人である伊藤忠兵衛が麻の布の行商を始めた1858年を創業の年としています。この創業者伊藤忠兵衛をはじめとする近江商人が経営哲学としていた「三方よし」の理念を、創業来の精神として、今も大切に受け継いでおり、2020年4月より改めて基本理念に制定しました。この三方よしの考え方は、SDGsの理念にも通ずると言え、そのような意味では、創業来、常に三方よしビジネスを展開してきているのだ、と自負しています。
また、2021~2023年の中期経営計画の基本方針において「SDGs」への貢献・取組強化を掲げており、更にSDGsに資するビジネス展開を加速させていきます。

■御社はSDGsに対してどのようなことに取り組んでいますか?
伊藤忠商事は、サステナビリティ上の重要課題(マテリアリティ)を、2013年に特定しました。以降、国際社会の動向やステークホルダーからの期待等を踏まえて適宜見直しを実施し、2015年のSDGs、パリ協定の採択等の社会状況を捉え、2018年度の中期経営計画を機に、新たに7つの重要課題を特定しました。(以下のスクリュー図ご参照)

スクリュー図

社会の今と未来に責任を果たす伊藤忠商事のサステナビリティへの取組みは、SDGsをマテリアリティに取り込むことにより、SDGsの達成にも寄与する仕組みとなりました。

① 繊維カンパニー「環境配慮型素材のブランディング」
サステナブル素材のブランディングを進めながら、繊維製品をグローバルに展開しています。

■「RENU (レニュー)」プロジェクト
2019年に始動した「RENU」プロジェクトでは、サーキュラーエコノミー(循環型経済)の実現と大量廃棄問題の解決を目指しています。「RENU」のリサイクルポリエステルの原材料は端切れや残反、使用済みの衣類で、それらを化学的に分解して粗原料まで戻すことで、品質や機能を損ねることなく新しい繊維に再生しています。繊維業界の廃棄物を繊維素材にリサイクルして循環させるプロジェクトです。

RENU サーキュラーエコノミーの図

■「Kuura(クウラ)」
2021年より、フィンランド森林業界大手Metsaグループと共同で開発した独自製法によるセルロースファイバー「Kuura」の展開を開始しました。Metsaグループが独自に開発した新特殊溶剤の使用および、製造工程における再生可能エネルギーの活用等により環境負荷を大幅に低減。
また、フィンランド森林業界のリーディングカンパニーであるMetsaグループとタッグを組むことで、木材資源から繊維製品という広範囲にわたるトレーサビリティを確立するとともに、安定的な原材料調達も実現しています。

Metsaグループ アネコスキ工場

②エネルギー・化学品カンパニー「ナイロン循環リサイクルビジネスの推進」
サステナブル素材のブランディングを進めながら、繊維製品をグローバルに展開しています。
世界最大のリサイクルナイロンブランド「ECONYLⓇ(エコニール)」を展開するイタリアAquafil社とナイロン循環リサイクルに関するビジネスの推進、拡大に向けて業務提携を締結しました。本提携を契機にナイロン廃棄物の回収スキームの構築、全世界にネットワークを張り巡らせ、廃漁網、廃カーペット、衣服などの最終製品を効率よく回収するスキームの構築を目指します。また、リサイクルナイロンを原料としたファッション及びプラスチック関連(包装資材等)の最終製品の開発、販売を各業界のブランドオーナー、Aquafil社と連携し本格的に取り組んで参ります。
さらに、既存の販売チェーンからの廃棄用ナイロンの回収スキームを構築する予定で、Aquafil社への原料安定供給の観点からも協業を進めて参ります。廃棄物の回収から最終製品の販売までをAquafil社と共同で取り組むことにより、付加価値の高いナイロン循環リサイクルの拡大を目指します。

エコニール 循環リサイクルイメージ
廃カーペット
ナイロン糸

③三方よしビジネス展
2020年7月1日から同年8月7日までの間、地域貢献の拠点伊藤忠青山アートスクエアにて、当社の循環型ビジネスを紹介する「伊藤忠の三方よしビジネス展」を開催しました。廃棄物発電の仕組み、ワイン製造後のブドウの種を全部使い切るフランス産グレープシードオイルなど、繊維、機械、金属、エネルギー・化学品、食品、住生活、情報・金融、第8の各カンパニーがそれぞれのサービスや商品を展示し、持続可能な資源利用に資するビジネスを実物やビジュアルで紹介しました。

三方よしビジネス展 フライヤー①
三方よしビジネス展 フライヤー②

■環境、社会、経済の中での重点と考えているのは?
世界共通の課題は引き続き気候変動であり、自社の削減取り組みや環境に資するビジネスを今後も積極的に展開することで、世の中への貢献ができるのではないかと考えています。
一方新型コロナウィルスの影響で、人権も重要度が増していると認識しています。総合商社は取り扱う品目が多種多様で、あらゆるサプライチェーンに介在しており、その影響力は大きく、セクターを跨いでサプライヤーに「責任ある調達」を働きかけられる、重要な役割と責任を担っております。
その範囲は、自社の従業員だけでなく、調達先や取引先の従業員、消費者、また、それぞれが関わる地域社会まで広く及んでいるということを改めて認識し、対応していかなければと感じております。そのため、環境、社会のどちらにおいても商社に期待されることや果たせる使命は無数にあり、重要なのは、いずれも本業を通じて経済の要素を織り交ぜながら持続可能にしていくことであると思います。

SDGsの取り組みは、目標を立てることと進捗管理する仕組みが重要


■どの部署がSDGsの活動を推進していますか?
全社サステナビリティ推進施策においてはサステナビリティ推進部が企画・立案しており、実行は各組織に選任されておりますESG責任者及び推進担当者が担っております。各組織毎に選任いただくことで、組織の事業や専門領域に応じた推進活動を実現することができております。

組織図

■社内の従業員や社外の取引先をうまく巻き込む工夫は?
特定されたマテリアリティを着実に推進するため、事業分野・実業ごとの重要なサステナビリティに関する課題とリスク・機会をカンパニー、組織ごとに抽出し、中長期目標となる「サステナビリティアクションプラン」を策定、HP上で公開しており、毎年進捗をレビューしております。そのように実ビジネスの中で目標を立てていただき、進捗管理する仕組みがSDGsビジネスを生み出す土台になっています。

■活動の推進が難しいと感じている点はありますか?
総合商社単体だけでなく、グループ全体へのESG推進が期待されておりますが、ビジネス領域が多岐に亘り、取り組みや考え方も事業会社毎に様々な状況です。その点を尊重しながら、偏りや不整合が生じないように考慮しつつ、推進施策を考慮することや、全体のデータの集計なども収集範囲が多くなるため、サステナビリティ推進部だけでは対応が難しいこともあり、ESG責任者・推進担当の協力を得ながら推進しています。

新時代の持続的成長企業として挑戦し続ける


■2030年に向けて今後目指すべきものは?
当社は、先般中期経営計画で発表した「SDGs」への貢献・取組強化の経営方針の下、持続可能な社会を目指し、全てのステークホルダーに貢献する「三方よし資本主義」の具現に努めてまいります。また、2030年はSDGsのゴールの年でもあり、総合商社の特性を最大限に活かし、多岐に亘る商品・サービスの提供および新規ビジネスの創出において社会的な責任を果たしながら、SDGs推進に取組み、新時代の持続的成長企業として挑戦し続けます。

■これから関西ファッション連合に期待することは?
サステナビリティへの取り組みには、さまざまなステークホルダーとのパートナーシップが欠かせません。これからも、SDGs関連の情報発信を継続していただくことで、企業同士の連携をさらに促進し、サステナビリティ側面で新たな価値創造につながる取組の拡大に貢献していただくことを期待しています。

■取材者あとがき
近江商人の「三方よし」の考え方はSDGsの理念にも通じると考え、ビジネスの中に「三方よし」の精神を取り込んでおられます。まさに創業者の「三方よし」の精神がしっかりと受け継がれていることを体感しました。多種多様な分野の事業に取り組まれておられますが、その根本は決して変わっていないことに感銘を受けました。取材協力ありがとうございました。