商号  学校法人ミクニ学園 大阪文化服装学院
代表  理事長 岩﨑一哉
創業  1946年
従業員数 43名(2021年3月現在)
事業内容 ファッション専門学校

■取材日:2021年 3月 10日

形式と本質の間で悩んだ結果、本業である教育活動を中心に取り組む


「ファッションで社会に貢献する」という経営方針のもと、ファッション業界との連携を重視し、即戦力となる人材を教育・輩出しておられる大阪文化服装学院さまの取組みについて、経営企画室 室長の加藤圭太さま、室長補佐の豊田晃敏さま、スーパーデザイナー学科・ファッションクリエイター学科 学科長の杦山晶さまにお話を伺いました。

■SDGsアクションの取り組みのきっかけは?
以前より、WWDジャパンなどの特別講義などでもコレクション情報の中に各ブランドのSDGsへの姿勢などが多く含まれるようになってきていました。学生がファッションショーやショップを企画するうえでも、SDGsに関する内容が織り込まれることが年々増えてくるなど、意識せずとも、学内でもSDGsへの意識は高まっていました。
ただ、学生や世の中の動向を見るにつけ、何かやらないと、と感じてはいましたが、「何かをしないと」でするべきことなのかと悩みましたが、やらないよりやった方がいいと判断しペーパレスなどに取り組みました。しかし、学校の取組みとしてこれでいいのかという違和感がずっとありました。
そんな中、2020年の卒業作品発表会(卒展)では、学生の企画により、ビジネス系学科が運営するオリジナルショップの会場に、レインボーフラッグをイメージするカーペットをステージ全面に敷き詰めました。学院としても、招待状を「ストーンペーパー」という再生紙に変更、羽毛循環サイクル社会の実現をめざす Green Down Projectに賛同し、アーバンリサーチ様と共同で回収ボックスを卒展の会場に設置するなど、卒展がSDGsについて考えるきっかけとなりました。
この卒展では、海外のファッションスクールから多くのゲストをお招きしたのですが、彼らとの交流、意見交換を通して、当校にとってのSDGsの活動とは、本業である教育活動にしっかり取り組むことだと再認識しました。より教育の質を高めるために本気で取り組んでいかなければならないと決意を新たにしました。
学生はそもそもサスティナビリティへの興味を持っている子が多く、資源を無駄にする事に対する意識は高いです。大人に比べるときっと身近なことなんだと思います。その子たちに触れ、大人も目先の何かではなく、継続的にできる本質的な行動を求められてきたように感じています。

卒展(ショー)
海外からのゲスト
オリジナルショップ会場のレインボーカーペット

■御社はSDGsに対してどのようなことに取り組んでいますか?
当校におけるSDGsアクションは、まさに「教育」そのものです。4番「質の高い教育をみんなに」を実現するべく、常に教育の質を高める取り組みを続けています。学内で組織横断型のプロジェクトを組み、直近3年程度で何をすべきか?10年後の社会を想像し、育成すべき人材とは?今のうちから取り組むべきことは何か?について議論しています。「本物のファッション」を創造できるクリエイティブな人材を如何に育てるか、これまでに無い新しい価値を生み出せるクリエイティブな能力をどれだけ身に付けさせるかが、提供すべき教育なのだと思っています。

①DX(デジタルトランスフォーメーション)教育の推進
目下の重点ポイントの一つとして、「DX教育の推進」をテーマに挙げています。DXが急速に進む社会において、ICT等のテクノロジーの活用法を学ぶことは、学生が「自身の人的価値」を高めるためには必須と言えます。そして、これらの人材は、9番「産業と技術革新の基盤をつくろう」に直結する、SDGsのいくつかの項目で目標達成に大きく寄与します。
2021年4月より、ファッションテック専門スクール「東京ファッションテクノロジーラボ(TFL)」と教育提携し、ファッション専門学校で初となる「3Dモデリスト」を育成する専門コースを新設します。
「3Dモデリスト」とは従来2DのCADでのみ作図されてきたパターンを、PC内で3Dモデルと連動して立体の形状に仕上げる技術を持つクリエイターのことを指します。高度なスキルを持つ「3Dモデリスト」が作成する3DCGは、現物サンプルと遜色ないレベルにまで再現されます。これにより、資源の無駄を省くだけでなく、各企業様における時間や経費の削減にも大きく貢献することになります。
・デザイン案〜量産決定までの検討期間の短縮、スムーズな合意形成
・量産決定までのサンプル経費の削減
・緻密な3DCGデータを活用した先行受注などによる需要予測
・ECサイトでの販売に向けてのささげ経費の削減
といったファッション業界のDX化を推進することが可能となります。

②グローバル戦略
もう一つの当校が挙げている重点ポイントが「グローバル戦略」です。長く愛用される「本物のファッション」を創造するには、クリエイティブな能力が欠かせません。当校は、イタリア・ポリモーダ校をはじめ、世界各国のファッションスクールとの交流を持ち、ファッション教育に関する意見交換を行っています。新しい価値を生み出せる、国際的に通用するクリエイティブな人材を育成する教育のあり方をつねに模索しています。
新型コロナウイルス感染症拡大の影響もあり、厳しい状況下にあるファッション業界において上昇気流を生み出すこと、デジタルスキルを持ったクリエイティブな人材をマーケットに送り出すこと、またそれによりファッション業界に活気を取り戻すことが当校の使命であると考えています。

■環境、社会、経済の中での重点と考えているのは?
「教育」を通じて、環境、社会、経済、すべての発展に貢献できる人材を育成することが重要だと考えています。新しい価値観を生み出し、企業や社会にインパクトを与えられるような人材を育成することが学校の役割と認識していますので、当校は創立以来「ファッションで社会に貢献する」という経営方針のもと、ファッション業界との連携を重視し、即戦力となる人材を輩出して参りました。ファッション業界の次代を担える人材を育成できるよう、10年先、20年先の社会を予測して、教育をアップデートして参ります。

学外イベントへの参加を通して認識を広げていきます


■どの部署がSDGsの活動を推進していますか?
教育改革の推進を先導し、取りまとめているのは「経営企画室」となりますが、経営ボード、教育現場を預かる教職員が一丸となって取り組んでいます。教室で学生を指導する各学科の教員一人ひとりが問題提起し、それに対する解決案、また、新たな取り組みについて提案する仕組みを作っています。

■社内の従業員や社外の取引先をうまく巻き込む工夫は?
教職員向けとしてSDGsアクションに限ったことではありませんが、例えば、教育改革を進めるための学内横断型のプロジェクトでは、全教職員が参加するワークショップなどを年間を通して何度も行い、現状の課題や未来に向けて取り組むべき事項について、年齢やキャリアを超えて対等に話し合う機会を作っています。そこからSDGsに関わるアイデアも数多く出ています。
学生向けの取組みとして外部講師による特別講義を開催したり、SDGsをテーマにしたコンテストやイベントに積極的に参加しています。例えば乳がんの啓蒙活動とサスティナブルを意識したセレクトショップのイベント、IZA PINK CHRISTMASにスタイリストとして参加したり、世界中から有力なファッションスクールが参加する「GRADUATE FASHION WEEK」(ロンドン)内のSDGs観点のコンテストへの参加を予定しています。アーバンリサーチ様の再生ダウンをテーマとしたコンテストでは、2020年度に最優秀賞を、2021年度は特別賞を獲得し、商品化していただくことになりました。
また、外部に向けて、当校が開催するファッションショーでは、できるだけ様々な人種のモデルに登場いただくなど、ダイバーシティーを意識しています。

ワークショップ
再生ダウンコンテスト商品化
朝日新聞記事(2020年9月30日掲載)

■活動の推進が難しいと感じている点はありますか?
学生指導において、SDGsとの向き合い方を示すことに難しさを感じています。作品(商品)を作る際の姿勢として、つねにSDGsを意識しておくことが基本です。ただ、時に、SDGsをトレンドとしてとらえてしまったり、学生が表現したいことを実現するうえで、環境負荷の高い素材を使用する場合もあります。基本的に、学生時代は自由な発想でのクリエイティビティを鍛えるための時間です。ファッションを生業とする限り、人をワクワクさせるプロダクトやサービスを創造できなければならないわけですが、その本分を見失うこともあります。前提とすべきSDGsへの姿勢、新しい価値を創造するクリエイション、双方をしっかり意識したモノづくりを指導する、このあたりのバランスは難しいところです。

企業とタッグを組んで若い人に支持される業界にしていきたい


■2030年に向けて今後目指すべきものは?
2030年には、グローバル化が進み、テクノロジーがさらなる発展を遂げ、世界は、今以上にボーダレスになっていきます。その担い手になれるような学生を数多く育てること、国境や人種、ジェンダーなど、ボーダレスな世界で新たな価値を創造できる人材を育成していきたい。そのためには「国際感覚」「デジタルスキル」は必須といえます。活躍する分野さえ「ファッション業界」に拘らず、ボーダレスに飛び越えてほしい。引いては、それが、日本のアパレルの発展につながると信じています。

■これから関西ファッション連合に期待することは?
当校の教育活動に対し、企業、業界の皆様からの評価、ご意見はつねにお伺いしたいと考えています。当校では、「教育課程編成委員会」や「学校関係者評価委員会」を設置し、学外の方に評価いただき、教育内容をアップデートしています。こちらには、KanFAやKanFA会員企業様にもご出席いただいており、教育活動に対する疑問、ご意見、またご要望を直接頂戴し、教育に反映させています。
専門学校は、業界への入口です。これからファッション業界を目指す「Z世代」の若者が魅力を感じられるような業界にすべく、企業、学校関係者が一丸となって努力しなければならないと思っています。企業の皆さまにも、当校の教育内容に関心をもっていただき、教育の在り方、次代を担う人材のあるべき姿についてディスカッションできるよう、そのパイプ役として、産学交流の場を数多く創出していただければありがたく思います。

■取材者あとがき
SDGsの活動方針について悩まれ、自らの本業を見つめ直した結果、4番「質の高い教育をみんなに」を目標に据え、経営方針「ファッションで社会に貢献する」を実現できる人材の育成を最優先課題として取り組まれておられます。本業を通じて目標達成に取り組まれている姿勢はまさにSDGsの活動趣旨に合致していると感じました。取材協力ありがとうございました。