■会社概要 商号 大津毛織株式会社 代表 代表取締役社長 臼谷喜世彦 創立 1917年(大正6年)3月10日 従業員数 92名(2019年2月現在) 事業内容 紡毛糸・毛織物・合繊編織物・衣料品・毛布の製造販売 及びウール合繊編織物染色整理加工 ■取材日:2021年1月15日
経営理念「人を大切にする経営」のとおりステークホルダーのために出来る事を考えます!
紡毛、製織、編立から染色整理加工まで一貫生産できる泉州地域でも老舗の紡毛製品製造販売会社である大津毛織株式会社さまの取組みについて、代表取締役社長の臼谷喜世彦さま、管理部 次長の上中文博さま、テキスタイル部の冨田真規子さまにお話を伺いました。
■SDGsアクションの取り組みのきっかけは?
少子高齢化が益々進み、社会保障制度の限界も垣間見え、生き方や働き方を含めた環境問題が世界的な問題となってきました。一方、グローバル化とIT化が進化したことで、市場のニーズや流通構造も大きく変化し、この社会の変化にどう対応していくかは大きな課題であり、持続可能性が問われる時代になってきたと思います。
そんな中、2015年に国連でSDGs(持続可能な開発目標)が採択されました。市場の環境変化に対応して持続可能な目標を持ち、そこを目指していくという取り組みは我が社が従来から行ってきたことですが、最近の大きな社会変化を鑑みて、さらに積極的に取り組まなければならないと認識しています。しかし変化のスピードは早く、SDGsへの対応が迫られてきました。経営理念である「人を大切にする経営」のとおり、社員、お客様、地域がこの変化に対応していくために何が出来るのかを全社で考えていますし、得意先に対してもSDGsに関連する提案を検討しております。
■御社はSDGsに対してどのようなことに取り組んでいますか?
①環境配慮型素材オニベジ
まず、男性と女性の昇給基準が別々だったのを同一基準にし、男女評価を同一とする制度に改めました。そして、社員の育成教育として、全社員にお願いしていることなのですが、個人ごとに目標を設定してもらい、年3回の上司との面談の内容を記録することにより、個人の成長の促進に繋がるよう取り組んでいます。併せて中堅社員に対しても年3回の社長面談を実施し、会社方針の確認と目標の共有に努めています。
採用面では中途採用に力を入れていて、特に高齢者や女性を積極的に雇用しています。従業員の比率として60歳以上は約35%、70歳以上は約10%となっています(2021.1現在)。また、人事考査制度や職能等級制度等、諸制度を整備し、働きやすい環境づくりを目指しています。地域の小中学生をはじめとする工場見学も積極的に受け入れています。
②原糸部における取り組み
染色工程削減の取組みとして、自然色を利用した原料を使用することにより染色工程を行わずに済みますので、CO2排出・熱エネルギー・水の使用量を軽減しています。
また、エコロジー紡毛として、紡績工程での落ち綿や製織工程の残糸などを回収してリサイクルしています。カシミヤにおいては色ごとに古着を分類することで原色を活かしたカラー糸を提供しています。
一方、中国の現地パートナーに反毛の機械とノウハウを提供し、自社の希望通りに生産してもらえる反毛工場を開設しました通常、反毛は反毛業者からしか仕入できないのですが、当社はオリジナリティのある反毛を作ることができます。編立や製織工程での糸屑や縫製の裁ち屑、ノイルと呼ばれる紡績工程での短い毛等を使用しています。中国は紡毛の世界の生産基地になっていますので、様々な素材を収集することが出来ます。希望の素材を集めてもらって反毛していますので、品質も安定させることができます。
設備面として、繊維長の測定は経験に基づく目視での測定が多く、経験者に依存していたところですが、経験の少ない人でも繊維長を測定できるよう、自動測定器を導入しました。
③テキスタイル部の取り組み
天然繊維の長所を伸ばし短所を補うような、例えば「軽さ」や「撥水性」、「イージーケア」や「ストレッチ性」などについて提案しています。
また、「OZMYⓇ」ブランドはトレーサビリティのとれる原料のみで編み上げたニット生地を生産していますので、これにより品質や混率を保証しています。
当社では工程の内製化と雇用の促進に取り組んでいます。今、産地では高齢化による廃業等で生産の多様性が失われつつあります。そこで廃業される機屋3軒から設備を譲り受けるとともに、その経営者や工場長に整備の協力をいただく体制を作りました。
また、丸編生産におきましても多品種・小ロット生産に対応するため、廃業する撚糸屋の設備と人材を取り入れ、更に外注工場で管理いただいていた編機も内製化することにより、安定的な生産と更なる商品開発を可能とする体制を作りました。日本国内で糸から編み地工程まで内製化している企業は他には無いと思います。
これまで素材は合成繊維が中心でしたが、カーボンニュートラルの視点から天然繊維の商品や、天然繊維を使用、無晒し、天然成分による洗い等、環境に良く人にも優しいガーゼ生地の開発を行っています。
また当社は国内生産を推進しています。従来、海外生産比率は約95%でしたが、現在の国内生産比率は約40%になっています。自社に生産設備はありませんが20年前までは、自社で編立、染色整理を行い、自社での企画製造販売を行っていたため、ノウハウはありますので、それを活用して泉州産地に還元しています。
⑤仕上加工部の取り組み
塩素を使わない防縮加工や、バインダーを使わないセットなど、環境負荷となる化学物質の使用量を削減するような取り組みや、高効率のボイラーの導入、各配管の入れ替えや断熱化により省エネへ取り組んでいます。
また、自動梱包機や自動搬出機、新型測色機と自動調液機を導入し、作業員の負荷軽減や経験の浅い方でも働きやすい環境を作るように取り組んでいます
我が社ではお客様がSDGsに取り組むための素材や商品の提供、提案をしていくことを目指し、日々、技術開発、商品開発を進めています。
SDGsの取り組みは経営者がリーダーシップを取るべき!
■どの部署がSDGsの活動を推進していますか?
チームのようなものはありません。それぞれの部門で市場ニーズをくみ取った結果として進めています。そのうえで、持続可能な目標を目指すためには、経営者が各部の取り組みを継続するよう言い続けないと実現できないと思います。現場だけでは、どうしても日々の仕事に追われて持続していくのが難しいように思います。
■社内の従業員や社外の取引先をうまく巻き込む工夫は?
従業員に対しては各自が取り組んでみようと思えるところまで話をするようにしています。また、展示会や、商談時に話ができるようツール(Youtube等)を作っています。
■活動の推進が難しいと感じている点はありますか?
変化に対応して新しいことにチャレンジするのが難しいです。変化については私から各事業部に、現状と今後進む方向性について伝えるようにしていますが、今は新しいことに挑戦して上手くいく可能性は限りなく少ないですし、挑戦して失敗すると責任も追及されるので従業員は新しいことに挑戦しにくい。だから経営者がやるしかない。ただ、それでも従業員からやりたいと言われたら応援するようにしています。
お客様が満足するものを提供することが大切
■2030年に向けて今後目指すべきものは?
世界一の紡毛企業になること。そして日本でものづくりをしながらマーケットが要求する商品を提供し続ける会社であることを目指します。新型コロナウイルスの影響で貧富の差は広がり、環境悪化も激しくなり、社会は大きく変化していきます。変化する社会や顧客のニーズ(満足)に応えていける会社でなくてはならないと思っています。そのために自社のノウハウや技術や設備を活用していきたい。
■これから関西ファッション連合に期待することは?
今、皆が一番困っている事に対して助けてあげること。それが存在意義だと思います。
これからは実際にものづくりをすることに対して困ると思うので、ものづくりの情報を伝えていくべきだと思います。各社では付き合っている範疇でしか分からない。組合員にとってはどれだけ自社を助けてもらえるかということだし、それなら新規加入も増えると思います。具体的な方法を考えていただければいいと思います。
■取材者あとがき
SDGsに取り組む上で最も重要なのは「人」であり、人を大事にしない会社は生き残れないというメッセージが心に響きました。「人を大切にする経営」という経営理念がSDGsの活動と企業経営に直結しているように感じました。取材協力ありがとうございました。