■会社概要
商号  蔭山株式会社
代表  代表取締役社長 伊藤忠一
設立  1967年(昭和42年)4月25日
従業員数 25名(2020年4月現在)
事業内容 繊維製品の販売及び付帯する一切の業務
取扱商品 羽毛ふとん及び羽枕の表地、裏地、中袋他
     羊毛ふとんの表地、裏地
     羽毛ふとん、羊毛ふとん、マットレスなどの縫製側
     羽毛ふとん、羊毛ふとん、カバリング、枕などのOEM寝装製品
     アイスランド産直輸入最高級羽毛;アイダーダックダウン
     インテリア用ファブリック;garb casa「ガーブカーサ」

取材日:2020年9月10日

トップの号令でSDGsに取り組む


寝装寝具のテキスタイルを中心に高級羽毛などを取り扱い、インテリア用ファブリックも展開されている蔭山株式会社さまの取り組みについて商品企画部部長の宮崎尚之さまにお話を伺いました。

■SDGsアクションの取り組みのきっかけは?
代表者である社長は外部の会合に参加する機会が多く、参加をすると必ずと言っていいほどSDGsが話題に登り、企業としても今後必須となるであろう取り組みであると感じていました。SDGsに関しては2019年9月頃に会社として指示が降り、商品企画部が商品化を検討しました。注目したのが環境問題の中でも海洋ゴミ、特に多くを占めるプラスチックゴミ中でも“ペットボトル”です。10数年前より再生ペットボトルを使用した商品を取り扱ってきましたが、今から20年も前に制定されたグリーン購入法、エコマーク云々の基準に合わせると品質面では風合いが固く使用感を損ね、また再生原料を使用する為価格の高い商品となり消費者への訴求には限界がありました。国内外で情報収集をする中でペットボトル再生糸「REPREVE(リプリーブ)Ⓡ」に出会い、2019年10月よりREPREVEⓇを使った生地の取扱いを始めました。皆さんそうかもしれませんが、当社でも以前から紡績メーカーが扱うECO関係の様々な素材を、この商品が”環境問題に配慮したものです”と取り立てて謳うことなく扱って来ましたが、今回のREPREVEⓇは当社ではSDGsが提示するアイコンに合致し尚且つ、ブランディングの面でもわかりやすく伝えやすい商品であり、消費者にも所謂”伝わりやすい商品”であると考え、ペットボトルの再生に取り組むREPREVEⓇを製品化しSDGsとして推進しています。

わかりやすいアイコン・ブランディングで消費者へも伝わるSDGs


■御社はSDGsに対してどのようなことに取り組んでいますか?
当社ではREPREVEⓇというリサイクル・ポリエステル繊維を、羽毛布団の側生地に使用する取り組みを行っています。羽毛布団の側生地としてはボリュームのTTC(ポリエステル85%、綿15%)と呼ばれる素材があるのですが、そのポリエステルの中の30%にリサイクルペットボトル繊維であるREPREVEⓇを使用しています。この再生ポリエステル糸は、リサイクル原料のトレーサビリティ即ち廃棄されたものを回収した段階から、最終製品が製造され、販売されるまでの間に、非認証原料の混入がないかなどの担保だけではなく、有害化学物質を含む加工薬剤の排除、廃水管理やエネルギー使用などの環境面、労働時間や各種ハラスメントのチェックなどの労働環境面、倫理面も審査項目となっている「グローバルリサイクルスタンダード」の厳しい検査を経て認証を受けた中国の紡績会社が製造しています。当社ではこの糸を使用し出来た製品には、その事を証明する「REPREVE」の札を製品1枚に付き必ず1枚を厳格な管理の元付与し販売する様にしています。また再生糸のみ使用した場合、生地の物性が弱くなり風合いも損ねるためREPREVEⓇ糸は30%程度しか使うことが出来ません。それでもシングルサイズの布団1枚で、破棄された500mlのペットボトル約10本がリサイクルされたことになります。今までの経験からECO商品は価格が高く、販売面の不安があり初めは売れなくても根気強く続けるつもりでスタートしましたが、何社かのお客様に賛同を頂き初回ロットは即消化することができました。更に受注しており現在追加の発注をしているところです。また一方では染色工程での取組も行っています。生地の染色には薄い無地色でも大量の水を使用します。一切色を付けずそのまま使用する事、またプリントに関してもスクリーンプリントではなく転写プリントにする事で染料と水の使用料を抑えるなど、当社では意識をしてそのような方法で商品を企画しています。これもSDGsの取り組みのひとつです。

SDGs関連素材の紹介
プラスチック汚染啓蒙パネル

■環境、社会、経済の中での重点と考えているのは?
コロナ禍、アフターコロナと呼ばれる今はまず経済が回ることが大前提ですがこれからは環境、社会、経済全てが並行して進んでいかなければなりません。昨年の9月頃はSDGsを知らない人はまだ多く、販売員の中にはエコ素材に対するかつての経験則から取り組みに反対する声が社内にもありました。昨年は主婦層の注目度の高い小泉議員の環境大臣就任や、SDGsバッチ等アイコンの普及、メディア露出等により今まで然程興味を持たなかった一般消費者が環境問題に興味を持ち始めるという流れがありました。現在はコロナ禍で少し停滞感がありますが、そろそろSDGsの取り組みも本格的に進むのではないかと期待をしています。

■どの部署がSDGsの活動を推進していますか?
ものづくりの部分での取り組みなので商品企画部が中心となり、販売先さまのその先の売り先の提案も行っています。環境問題に対する意識の高い大手企業から引き合いがあり、大手企業ほどトップダウンの指令により取組に前向きです。リサイクル関係の取り組みは多くの企業から提案されていますが、我々が扱っているREPREVEⓇはグローバルに展開する前述のGRS認証を取得しているので進め易いと感じています。

■社内の従業員や社外の取引先をうまく巻き込む工夫は?
トップである社長が号令をかけ取り組みがスタートしました。商品企画部が素材の企画、調達と販促ツールの作成、それと営業に説明するためのポイントを共有できるリーフレットを作成しています。お客様への提案の際に要望があれば営業に同行もしています。

自社で作成された商品紹介リーフレット

■活動の推進が難しいと感じている点はありますか?
日本の場合は特にリサイクルに対して遅れていると感じています。日本の消費者は「再生」と聞くと「人が使ったもの」というイメージを持つ人が多く、我々は素材供給の会社である為、企業間の提案では資料の作り込みで対処できますが、一般消費者へは「再生」=「人が使ったもの」というイメージを直接払拭する術を持ちません。今後は店頭VMDなどを用いてイメージ払拭のためのソリューションを供給するところまで踏み込むことが課題となるでしょう。結果リサイクルへの取り組みが「かっこいい」と思われるようになり、世の中で必須のようになれば有難いです。消費者にも少しでも環境問題に貢献できる商品を選ぶ意識の高い人が増えてきており、日本でもこれからだと感じています。再生ポリエステルは高騰している現実があります。この取り組みが広まりスタンダードになれば価格も下がり、以前のECO活動よりは広がりがあるのではないかと期待しています。

SDGsに取り組む限りは貢献できるものにしたい、世の中に広げていきたい


■2030年に向けて今後目指すべきものは?
REPREVEⓇに注力をしてきたいと考えています。布団業界ではボリューム定番素材であるTTCに、REPREVEⓇは価格も使用感も近いため自然と再生PET使用素材に移行していくことが可能です。たとえそれが当社の商品でなくても構わないと考えています。生地用尺を多く使う布団は、それだけ再生PETも多く消費することが出来ます。多く使用することで素材原料の価格をおさえスタンダードにしていきたいと考えています。また布団は耐久消費材としては比較的長期間使用でき、商品ライフサイクルが長いため製造―使用―廃棄まで時間がかかることもSDGsの一環として貢献できるものです。寝装業界全体がSDGsを意識しこの課題に取り組むことが大事であると考えます。当社としても取り組む限りは貢献できるものにしたい、世の中に広げていきたいと思っています。

■これから関西ファッション連合に期待することは?
多くの企業が加入する団体であるKanFAから業界へ働きかけREPREVEⓇなど再生PET素材を広めて頂きたいと思っています。多くの企業が使うことで環境改善へより大きな効果が期待できます。

■取材者あとがき
自社の売上よりも業界全体で取り組むことが優先であり、それがひいては自社の売上に繋がっていくという循環型の考え方が印象的でした。また、消費者の環境への意識の高まりを見据えながら事業を推進される事で、消費者の意識の変化に柔軟に対応できると感じました。取り組みを推進される中で、担当者ご自身がゴミの分別を積極的にされるようになったとお伺いし、SDGsの取り組みのポイントがここにあると実感しました。取材協力ありがとうございました。