■会社概要
商号 増見哲株式会社
代表 代表取締役 増見 喜一朗
創業 1939年 11月(昭和14年)
設立 1952年 1月(昭和27年)
従業員数 80名 ※2025年11月現在
主な事業内容 服飾・繊維資材(ファスナー・レース・ボタン等)の卸売
ホームウェア(かっぽうぎ・エクロン等)の企画・販売
「ei-to」地域創生複合施設 運営
■取材日:2025年 11月 4日
淡路島「ei-to」を持続可能なファッション発信の拠点に
~ 淡路島から世界へ ~
創業以来、服飾副資材の専門商社として、ボタン・レース・ファスナー・裏地・芯地など服作りにはかかせない素材を取り扱ってこられた増見哲株式会社。
兵庫県淡路市のプロポーザル事業を活用し、2017年に閉校となった淡路市立江井小学校を取得、リノベーションを行い、2023年12月にファッションに特化したサステナビリティ(持続可能性)の発信拠点として「ei-to(エイト)」を新たに誕生させました。
現在は、服飾の製造・加工・販売を中心に、地域とのつながりを大切にしながら、さまざまな新しい挑戦を進められています。
今回は、2020年にSDGsの取り組みについて取材させていただいてからの歩み、そして淡路島「ei-to」での新たな挑戦について、増見哲株式会社 代表取締役 増見喜一朗さま、大阪服飾部 チーム12 チームリーダー 大西誠央さまにお話を伺いました。

代表取締役 増見 喜一朗 様
■SDGsアクションの取り組みのきっかけは?
コロナ禍の2020〜2021年は、SDGsが広く注目され、サステナブルな商材への関心が高まった時期でした。
当社でもその流れをいち早く捉え、副資材分野で環境に配慮した素材を集めたカタログを作成し、取引先への提案活動を開始しました。卵の殻を原料にしたボタンなど、ユニークなエコ素材の開発にも取り組んでいました。
その頃「より広い視点でサステナブルに関わる事業を展開したい」との思いが芽生え、神戸市北区の古民家購入を検討。農村地域での起業や事業づくりを支援する神戸市のスタートアッププログラムにも参加し、農業について学び始めました。
ちょうどその頃、創業者である祖父の母校・淡路島の江井小学校が閉校になったことを思い出し、調べてみると利活用業者の公募をしていることが分かりました。思い入れのある土地でもありすぐに取得に向けて動き出しました。
淡路島は当社にとって特別な場所です。創業者である祖父の出身地であり、淡路島で開催される「国生みマラソン」には第1回から41年間にわたり協賛を続け、社員も毎年参加しています。また、神社への寄付や小学校への石碑寄贈など、地域貢献活動に継続的に取り組んできました。
地域の80歳以上の方々の中には、当社の寄付で野球の遠征に行った思い出を覚えてくださっている方もおり、江井小学校の取得に際しては8つの地区の会長から推薦をいただくことができました。こうして無事に取得し、廃校を活用したサステナブルファッションの発信拠点として新たな事業をスタートしました。
一歩たちどまり「今のままでいいのかな」と考えるきっかけが
ここから生まれることを願って
■御社はSDGsに対してどのようなことに取り組んでいますか?
①サステナブル副資材の定番化・サステナブルは当たり前に
以前SDGsの取組について取材を受けた2020年頃はサステナブルな商材が求められるようになり当社が取り扱う副資材でも環境を意識した商品が出はじめ別注対応をしていたサステナブル商材も今では定番になり汎用性が広がっています。バイオマスのボタン、再生ポリエステルの糸を使用した裏地など定番商品として展開しています。それだけ市場ではサステナブル商材が求められ、当たり前の選択肢となっています。
当社が運営する小売店999+1で販売する商品に“あ~とはうす”(障がい者就労継続支援B型事業所)の皆様が作成されたオリジナル商品があります。「ei-to」でも販売していますが、商品のクオリティも高いため、特別な説明書きを敢えて付けていません。
②働きやすい環境の整備とものづくりの場の継承
本社では社員が働きやすい環境整備の為、また若い人材の採用の為に事務所のリノベーションを進めています。来年4月には1階にYKKのファスナー加工機を導入します。周辺地域にホテルやマンションが増え急激に変化する中、地域にものづくりの場を残すことに拘っています。
③社会貢献の輪を広げる
本業には直接関係しない活動も継続しています。地域の子供たちを笑顔にする為に「神戸市立王子動物園」の動物サポーターとして運営費の一部の寄付や、最近ではNPO法人「阪神淡路大震災1.17希望の灯り」を通じて能登で活動する大学生、高校生ボランティアを応援するなど、社会貢献活動の輪を広げています。
④淡路島「ei-to」での取り組み
・雇用を生み出す
「ei-to」での取り組みを進める中で、一番大きな成果は移住を伴う就業例が生まれたことです。現在「ei-to」では東京、横浜、京都、奈良から移住をした社員が活躍をしています。もちろん現地の卒業生や島内の方を採用するなどの雇用も生み、地方創生に貢献し、住み続けられるまちづくり、働きがいや経済成長に繋がっています。
・リユース・リサイクル・リデュース「ei-to」の施設は廃校をそのままリノベーションしています。「捨てないで生かす工夫」としてものを大切に扱うことをコンセプトに施設運営を行っています。
展示物を置く陳列台は全て廃棄する繊維を板状に成形したものを使用しています。この商材はサーキュラーコットンを製造されているCCF(一般社団法人サーキュラーコットンファクトリー)の繊維の廃棄物を主原料とした再生素材を使っています。
照明は海に廃棄されていたゴミを再利用、廃材を使ったアート作品も館内に展示し来場者を楽しませています。


・地場産業・地域への貢献
「ei-to」があるこの江井地域は古くから線香の産地で175年の歴史があります。地域の産業である線香の組合、兵庫県線香協同組合の常設のギャラリーを施設の2階に設け線香産業の歴史紹介やワークショップの開催などにも協力、店舗では線香の販売も行っています。かつて日本一の線香の生産地であった江井に新たな線香の発信の場所を作ることが出来、新たな取組みも始まっています。また、施設内には江井地域の歴史を学べる江井博物館も運営しており、地域の方が作られたジオラマでこの江井地域の昔の生活を学ぶことが出来ます。
・環境に配慮した商品の紹介・販売、ものづくりの場の提供「ei-to」では割烹着ブランド“Kapoc”、端布の出ないトートバックや和紙から作ったショートパンツをはじめ、淡路島ならではの藍染の商品、アートランプ等、環境に配慮した未来へ繋がる商品を紹介、販売しています。古着の販売や、古着をリメイクしての販売も手掛けています。
また、裁断、縫製、ボタンつけ、刺繍、プリントと商品が出来る様子をご覧いただける工房や、オリジナルプリントが出来る工房、日本古来の藍染を体験できる工房を設け、誰でも簡単に愛着のある商品をつくることができます。ものづくりの楽しさを知ってもらいたい、そう願ってさまざまなワークショップを開催しています。こだわりのある商品、愛着のある商品は長く大切に使っていただけます。
ワークショップの一つではColemanが提供する「廃棄テントにみんなで絵を描く」イベントを開催し、参加した子供たちが描いたものをバックにしてプレゼントをしました。


・ファッションを学ぶ機会の提供と淡路島からファッションを発信
大きなイベントとしては淡路市の服飾関係者でつくる実行委員が主催し「淡路こどもファッション学」を夏休みに合わせて開催しました。子供たちがデザインや縫製を学び自由な感性でオリジナルの洋服を作成、自らランウェイでお披露目をしました。当社では服作りに必要な生地やボタン、ブランドネームの作成、加工機器などを提供しました。
お披露目の場となった「Awajishima Collection 2024」では淡路市で活躍するデザイナーや淡路島出身のデザイナーのファッションショー、専門学校の学生によるショー、島内の子供によるダンスショーなどを開催し、地域の方と共に楽しめるイベントになりました。「ei-to」がファッションを通じて地域を元気にする発信源になれればとの思いで開催をしました。


・地域のみなさんとともに、地域に根差した活動を
他にも、地域の方に参加いただけるイベントも多数開催をしており、春には桜まつり、夏には夏祭り、12月には餅つき大会を開催、今年も12月27日に開催します。夏まつりでは寄付を集め開催される花火大会にも協力をしています。この花火大会は地元の江井の方で難病と闘っている方が、コロナ禍で花火が見られない子供たちに希望を届けたいとの思いから始められたものです。
また、淡路島をホームとして活動するサッカークラブFC.AWJと“トモツクパートナーシップ”を提携し、子ども達が集まり体を動かす地域交流の場を共に創っています。
地域に根差した活動を行うことで、たくさんの方にお越しいただいています。
■現在の取り組みはどのテーマに該当しますか?
地域と人、そしてものづくりを未来へつなげる
■SDGsへの取り組みにより、どのような変化がありましたか?
「ei-to」でのSDGsへの取り組みを通じて地域の方との繋がりはもちろん、多くの人との繋がりが生まれました。SDGsへの取り組みは繋がりの質と量を高め、自社の事業戦略と人材確保に前向きな影響をもたらしています。若年層の応募が増え、人材の確保が進みました。
副資材の販売先さまにおいても「ei-to」での取り組みに興味をもっていただき、話題になり話がひろがります。注目していただいていることは嬉しいことで、取引先さまがいち消費者として「ei-to」を訪問してくださることもあり、良い感想を聞かせていただく事は社員の励みになっています。
また、様々な方との出会いがあり、結果としてたくさんの取り組みを実施することが出来ました。どの取り組みも1社では出来ない事でパートナーシップの大切さを痛感しています。引き続き新たな取り組みに向けての問合せも多数いただいており、今後の展開に期待しています。
最近は海外からの訪問も増えています。海外から突然訪問されたクリエイター5人に協力し資材や設備の提供、技術支援から島内のクリエイターや職人との交流支援を行いました。クリエイターの作品は今も施設内に展示されています。直近ではフランスから40名の方が施設を見学に来られる予定や、「ei-to」を知る台湾の方が靴下の展示販売をされる予定など、ものづくりや販売の場としても活用されています。また、兵庫県知事が当施設を訪問される予定があり各方面から注目をしていただいていることは社員のモチベーションにも良い影響をもたらしています。


■SDGsアクションの推進について課題と感じていることはありますか?
部署や役割毎に理解度や温度差が生じてしまっている部分があることが課題です。
「ei-to」でのSDGsの取り組みと本社での取り組みを双方の社員が全て理解している訳ではありません。双方の取り組みを報告することで共有できている部分もありますが意識の違いがあると感じています。同じ会社の中で、業種、業態が違うことで生まれる温度差を、双方の理解度を深めることで改善していければと思っています。
また、SDGsの取り組みは業績に明確に表れるものではなく、成果を定量化しづらい所があります。社内外への説明や合意形成の難易度が高いと感じています。
SDGsを推進するには「ei-to」の認知度をもっと上げていく必要があります。淡路島での認知度もまだまだです。まず淡路島の方に知ってもらうことが大事だと思っています。
新たに取り組むこの事業の推進は社長にしかできないと思っています。結果が出るまでは正直大変です。社長自ら先頭にたち、社員と共にSDGsに本気で取り組んでいます。パフォーマンスではなく実行をしていくことが何より大切です。
■SDGsの推進に際し、関西ファッション連合に期待することはありますか?
SDGsは様々な業界で推進されています。繊維関連企業の情報を入手することはできますが、異業種の具体的な情報を収集する事は難しく、繊維産業以外の情報で参考に出来るような情報を提供していただきたい。他社の取組みや成果を知ることで参考にできる部分は沢山あります。
また、SDGsに関わる制度や最新の情報など知らない事が多くあると感じています。出来れば要件を整理して情報を提供していただけると有難いです。SDGsを推進するにあたり想定される課題を解決するための勉強会や情報交換をする場があっても各社の助けになるのではないでしょうか。
■取材者あとがき
「ei-to」での取り組みには、地域と人、そしてものづくりを未来へつなげようとする強い信念を感じました。廃校という場所に新たな価値と息吹を吹き込み、サステナブルファッションの拠点として再生したこの場所は、単なる施設ではなく、新しい循環の形、地域住民や若いクリエイター、企業、行政といった多様なステークスホルダーが交じり合う空間であり、新しい循環が生まれる“共創のプラットフォーム”です。
取材の中で印象的だったのは、理念や表明にとどまらず、実践し続ける姿勢です。環境配慮型素材の普及、雇用の創出、廃棄物の活用、地域産業との連携、子どもたちへの学びの場づくりなど、一つひとつのアクションが地域と調和しながら進められ、SDGs推進のひとつの理想的な形でもあります。
対話と体験を通じて共感を育み、仲間を増やしながら広がっていくその姿は、多くの企業さまのヒントになるのではないでしょうか。淡路島から世界へ─その確かな歩みをこれからも楽しみにしています。
取材協力ありがとうございました。
