■会社概要
商号 丸紅ファッションリンク株式会社
代表 代表取締役社長 河村 克巳
設立 1982年 4月 1日
従業員数 260名 ※2025年4月現在
主な事業内容 繊維製品卸(ファッション衣料中心)、海外ブランド品小売り
■取材日:2025年 5月 16日
商売を通じたパートナーシップで、笑顔あふれる未来を目指して
取引先や顧客とパートナーシップを組み、「LINK」を作り、商売を通じて世の中に新たな価値あるものを提供し続けることで、笑顔あふれる未来を実現することが使命と考える丸紅ファッションリンク株式会社の取り組みについて、丸紅ファッションリンク株式会社 コンプライアンスチーム チーム長の直井さまにお話を伺いました。

右:代表取締役社長 河村克巳様
左:コンプライアンスチーム チーム長
直井剛史様
■SDGsアクションの取り組みのきっかけは?
SDGsへの取り組みは、親会社である丸紅株式会社の「行動憲章」に基づき、2022年に社長発案による社内プロジェクト制の導入を契機としてスタートしました。「環境問題に心を配り、健全な地域環境を子孫に継承する」という行動憲章の理念が当社の環境指針にも取り入れられ、社内全体に社会貢献への意識が広がるきっかけとなりました。
具体的には、丸紅グループ内企業と連携した二つのプロジェクトが立ち上がりました。一つは丸紅㈱が出資するアメリカに本社を置く繊維のリサイクル技術を開発する企業と提携したオリジナルエコ素材の開発、もう一つは日本の縫製工場から回収した端材を反毛し、サステナブルなピュアコットンとブレンドした糸で靴下や下着を生産。プロジェクト開始から2年が経過し一様の成果があった事から解散となりました。
当時は、廃棄削減に対する意識が社内に根づきつつある一方で、SDGsという言葉が世の中に広がり始めた頃でもありました。そうした中で、従業員の間でも「何をすればいいのか分からない」といった戸惑いがあったものの、プロジェクトの立ち上げが意識の切り替えに繋がり、実際に実践するといった行動変容が見られるようになっていきました。
また、産業廃棄物の処分場を訪れた際、廃棄物のリサイクルが可能であることを知ったことも大きな転機でした。これにより、単なる削減ではなく、再資源化を目指す新たな視点からの取組みが始動しました。
こうした一連の活動を通じて、「行動憲章があるからこそ、しっかりと取り組まなければならない」という意識が従業員の間にも根づき、また当社が入居するビルがZEBの評価取得やRE100対応の再エネ電力を導入していることも追い風となり、持続可能な企業活動への一歩を踏み出すことができました。
社外パートナーとの協働で、持続可能な処理体制を構築
■御社はSDGsに対してどのようなことに取り組んでいますか?
① 廃棄物の再資源化を通じた環境負荷の低減
当社では、OEM・ODMを中心とした事業特性から、不良品や在庫品の回収・再利用を自社主導で行うことが難しいという課題がありました。そうした中、やむを得ず排出される繊維製品等の産業廃棄物について「廃棄をいかに環境に負荷なく処理できるか」に着目し、産業廃棄物のリサイクル化に取り組んでいます。
従来は焼却や埋立てにより処分されていた廃棄物を、契約する産業廃棄物処理業者の協力のもと、RPF(産業廃棄物のうち、マテリアルリサイクルが困難な古紙や廃プラスチック類を主原料とした高品位な固形燃料)またはフラフ燃料(資源回収されずゴミとして排出された廃プラスチック、紙くず、繊維くず等を破砕・選別・圧縮して作られた代替燃料)へと加工し、有効利用するルートへと切り替えました。これは当社が直接リサイクルを行うのではなく、処理委託先の技術と仕組みを活かした取り組みです。
この取り組みは、委託している産業廃棄物処理業者の現場を訪問したことからスタートしました。丸紅グループとしても「年に一度は現場確認を行う」という方針があり、その機会に環境負荷を抑えた処理方法としてRPFやフラフ化の提案を受け、すぐに導入を決定しました。商社として、社外の力をうまく結びつけながら取り組む姿勢は、当社らしさの表れとも言えます。 実際に2024年度のプラスチック廃棄量は15.65tで、これをリサイクルすることでドラム缶約77本分に相当する燃料油の節約効果が得られたと試算しています。コスト面でも焼却処理より安価で、環境にも優しいという点で「導入して良いことばかりだった」との実感があります。 ぜひ他社の皆様にもご活用いただきたいです。

RPF原料(イメージ)
②「見える化」による社員の意識改革と行動変容
社内では事務用品の使用量削減にも取り組んでおり、コピー用紙使用量の「見える化」が大きな効果を上げています。2022年からは、部署ごとに使用枚数や金額を毎月集計し、全従業員にメールで配信。「経費削減とお願い」という形でデータを共有することで、各部署の意識が高まり、無駄な出力を自然と控えるようになりました。
従来は「削減してください」と言っても行動に移すことが難しかったものの、具体的な数字が示されることで理解が進み、社内全体に削減への自発的な取り組みが広がっています。
その他にも、LED照明への切り替えや窓ガラスへの断熱フィルム設置など、社内の省エネ対策を推進しています。また、丸紅グループ共通のチャットボットを活用することで、社内の情報共有や業務効率の向上も進んでおり、働き方改革と環境配慮の両立を図っています。

断熱フィルム(イメージ)
■現在の取り組みはどのテーマに該当しますか?





「できないことは、みんなでやろう」
■SDGsへの取り組みにより、どのような変化がありましたか?
2024年よりスタートした産業廃棄物の固形燃料化という取り組みは、まだ社外に向けた公表には至っていないものの、社内では確実にリサイクルに対する意識が高まりつつあると感じています。
取り組み開始後すぐに、どれだけの廃棄物が出ていて、それがどれほど有効活用されたかといった効果を全社に共有しました。目に見える成果を数字で示すことで、社員の間でも「廃棄を減らすことの意義」が浸透し始めています。
社内の情報発信にも工夫を加え、今後は当社ホームページなどを活用して従業員への認知を広げていきたいと考えています。外部発信については、自社のWEBサイトの見直しを検討していることもあり、準備を進めている段階です。とはいえ、今回のインタビューが、親会社である丸紅㈱との連携を深める良い契機になるのではと、期待を寄せています。
社員への働きかけについても、単なる「ルールの周知」にとどまらず、「勝手に廃棄しない」「その背景にある社会的責任を理解する」など、意識改革に重点を置いています。丸紅グループの一員として、環境配慮や社会貢献の視点を持って行動することは当然の責務であり、「自社だけが利益を上げればよい」という考えから脱却し、持続可能な社会の構築に貢献できる企業でありたいという思いがあります。
取り組みの多くは、当社が単独で発見・開発したわけではありません。しかし、既に可能な手段や提案を社外から受け入れ、繋いで取り組みに昇華させていく。それこそが商社らしいアプローチであると自負しています。
今後は、こうした取り組みを少しずつでも広めることで、「埋め立てや焼却ではなく、こんな選択肢もある」と知ってもらうことが大切だと考えています。社内外への啓発活動を通じて、同じような事例が広がっていくことを願っています。
■SDGsアクションの推進について課題と感じていることはありますか?
SDGsへの認識そのものは社内に浸透してきていると感じていますが、当社単独での取り組みだけでは、社会的なインパクトとしてはまだまだ小さいという課題を感じています。だからこそ、当社だけで完結するのではなく、親会社である丸紅㈱をはじめ、グループ会社や、日頃から取引のある仕入先様や販売先様といった関係先とも連携し、「できないことは、みんなでやろう」という丸紅グループのメッセージのもと、より広がりのあるSDGs活動を進めていきたいと考えています。
社員一人ひとりの行動変容という意味でも、まだ課題は多く残っています。例えば、社内で不要になったダンボールが廃棄のために積み上げられている光景に対して、「もったいない」と感じてほしいというのが率直な思いです。確かに廃棄は必要な処理ではありますが、そこに一歩踏み込んだ発想があるかどうかが、企業としての次の成長につながると考えています。
また、社員が「こんな取り組みはできないか」と自ら相談してくるような環境が理想ですが、現時点ではその段階には至っていません。今はまだ、社外からSDGsについて問われたときに的確に答えられる体制を整えることや、現在の取組み状況をしっかりと社内外に伝えていくことが必要だと感じています。
さらに、企業単体の努力だけではなく、業界全体での連携が不可欠です。SDGsの重要性は理解されつつある一方で、調達の現場ではどうしても「価格優先」「効率優先」の姿勢が残っており、サステナビリティを前提とした議論の場はまだ限定的です。社内ではコンプライアンスチームと連携しながら調達方針を確認していますが、取引先との対話においては、具体的な提案を行うには至っていないのが現状です。
こうした課題を乗り越えていくためには、地道な啓蒙活動を続けるしかありません。「まずは自社がどこまでできているか」を明確に示しながら、関係者を巻き込んで、持続可能な社会の実現に向けて着実に歩んでいきたいと思います。
■SDGsの推進に際し、関西ファッション連合に期待することはありますか?
SDGsへの取り組みは、各企業がそれぞれの立場で実践を重ねることで一定の効果は生まれますが、その絶対量は決して大きいとは言えません。だからこそ、関西ファッション連合には、企業同士の情報共有や橋渡しの役割を担っていただき、新たな気づきや連携のきっかけを生み出す場を作っていただけることを期待しています。現場には、まだ言葉になっていないヒントがたくさん転がっているはずです。
ファッション業界といっても、事業規模や業態の違いにより利害が一致しないことも多く、全員が同じ方向を向くのは難しいと感じています。だからこそ、「例えば丸紅グループはこんな取り組みをしている」といった具体的な情報を発信していただき、他方で他社の取り組みを知る機会を増やしていただけると業界全体の理解が深まり、共感や共創の可能性が広がると考えています。
また、どこと繋がりたいか、という相手をあえて限定しないことも重要だと思っています。同業他社に限らず、異業種との連携や思いがけないご縁が新たな価値を生み出すこともあるはずです。そのため、組合が中心となって情報共有のチームを立ち上げ、自由に話し合えるような機会があれば、ぜひ参加したいです。知ることで繋がりやすくなると思います。
そして今後はさらに一歩踏み込み、困っていることや探している情報をマッチングできるような仕組みを構築していただけると、より実践的な支援につながるのではないかと期待しています。
■取材者あとがき
足元から着実にサステナブルな仕組みを築いていく姿勢が印象的でした。自社で完結するのではなく、パートナーと共に歩むことで、より大きな成果へとつながる。まさに「LINK=つながり」が未来を変える力になると感じました。
取材ご協力ありがとうございました。