■会社概要
商号  室谷株式会社
代表  代表取締役 室谷 勝弘
創業  1925年
設立  1950年
従業員数 70名 ※2024年5月現在

主な事業内容 アパレル副資材卸売、製品販売・OEM

取材日:2024年 5月 28日

大きなことは難しい。ささやかな環境意識からスタート


アパレルメーカーが生産販売する衣料品の材料となる裏地、芯地から釦、ファスナー、縫い糸や、ラベル、ハンガーに至るまで、全ての資材を提案販売されている総合商社である室谷株式会社さまの取り組みについて、代表取締役の室谷勝弘さま、プロジェクトリーダーの浅田さまにお話を伺いました。

左:代表取締役 室谷勝弘様
右:プロジェクトリーダー浅田様


■SDGsアクションの取り組みのきっかけは?
SDGsに関しては副資材関連のお客様からのご要望や、変えていかないといけないという社内からの声を受け、定番商品である裏地類に使用するポリエステルをバージン素材から再生ポリエステルに変更しました。段階的に進めて、主力商品はすべてリサイクル素材を使用するようになっています。 ある時、活用することで緑化事業に貢献できるというホホバオイル由来の柔軟剤を紹介いただきました。取り扱う意義は非常にあると思いましたが、これだけではお客様にご理解いただきにくいと感じ、どうすべきかと悩みました。一方、従前より冷感が持続するクロスミント加工や臭い対策、抗菌・抗ウイルスなどの様々な加工を取り扱っていたので、それらと柔軟剤を組み合わせることで、様々な快適な素材の提供ができるのでは、と考え、「365日心地いい暮らし」をコンセプトとした「hugcumu(育む)」プロジェクトを立ち上げました。

快適加工ラインナップ

「hugcumu」プロジェクト

「hugcumu」プロジェクトは浅田リーダーを中心に、東京店や営業部門などから7名のスタッフと、川口開発担当の8名がメンバーです。 会社として2025年で創立100周年を迎えるにあたり、これまで関わっていただいた方に恩返しをしたい、また次の100年に向けて歩みを進めたいということで「大切に守って発展させていく」という意味の「hugcumu(育む)」をプロジェクト名にしました。 プロジェクトリーダーに伝えていたのは、ビジネス目線はもちろん外せないのですが、自分の欲しいものやいいと思う事にチャレンジして欲しい、自分の子どもに着せても安心安全なもの、自分が友達にプレゼントしたいと感じるもの、などの視点を優先して欲しいということ。そうじゃないと続きませんので。

プロジェクトはゼロからのスタートでした。まずは合同展のファッションワールド東京に出展することを第一目標に据えました。事業の内容は全てプロジェクトチームで検討し、周りの部門には見守るように指示をしました。全て若い世代の知恵とアイデアで形にして欲しいと考えたからです。早速効果もあり、展示会では「かわいい」という普段聞かないキーワードと共に好評を得ることができました。

ファッションワールド東京 ブース

展示品


御社はSDGsに対してどのようなことに取り組んでいますか?
ホホバオイル由来の柔軟加工を生地に施すことで、そのホホバオイルのもとになるホホバを植樹して砂漠の緑化事業を持続的に展開している㈱シモンドの取り組みを支援しています。 緑化事業でホホバを活用したのはホホバが環境に適していたからだそうです。ホホバの木は比較的早く成長することや、水が少なくても成長しやすいのが特徴です。緑化に取り組んでいるのはエジプトの砂漠なのですが、ナイル川の流域でもあることから地下水が豊富で、それを汲み上げて利用しています。 現在、砂漠に4.2ヘクタール(200メートル四方程度)の農園を作っており、そこで育ったホホバの木に実が成るのですが、その実の約50%がオイルの成分に活用できるほど、オイルの含有率が非常に高い植物です。採れるオイルの成分が人間の皮脂の組成に非常に似通っているという特徴もあり、ホホバオイルを塗るとサラッとしていて肌に馴染みやすく、保湿化粧品としても利用されています。
ホホバの循環イメージ

㈱シモンドが展開する緑化事業に賛同し、そこから誕生するホホバオイルを世の中に広めたいと考えています。ただ、関わるからには取り扱う商品をより多く販売することを目指したい。なぜならそこでの収益が緑化事業に還元されるからです。 つまり多くの人にホホバオイル由来の商品を購入いただくことで、ホホバの植樹が進み、農園が拡大し緑化も広がります。そして農園での雇用促進にも繋がっていくという循環型の取り組みです。 弊社ではその農園で採れたホホバオイル由来の柔軟加工剤を用いて様々な生地に加工を施し、アパレル等に販売しています。その販売先が小売店や消費者に販売することで、ビジネスモデルとしてしっかり循環できるよう取り組んでいます。 少しずつですが、ビジネスとして成立するように関わることが支援においても重要だと感じています。ホホバオイルを活用した製品を取り扱うことで「緑化事業を支援しています」と標榜することができますので、趣旨に賛同いただける企業と共に取り組みの幅を広げていきたい。hugcumuプロジェクトはまだまだ道半ばで、トライアンドエラーを繰り返している状況ですが、私たちはホホバ由来の素材に機能を付与することで、環境にもやさしく、且つ365日心地いい暮らしを提案できるよう、これからも取り組んでいきます。
hugcumuサークル


■現在の取り組みはどのテーマに該当しますか?



自分たちがいい、と思うことをやれる土台が無いと続かない



■SDGsへの取り組みにより、どのような変化がありましたか?
これまで関わりのなかった方に私たちの取り組みを知ってもらうことができました。また、既存先に対しても新しいこと(SDGs)に取り組んでいると知ってもらうことができました。その影響により、例えばある商社はプロジェクトの趣旨に賛同いただき、自社で調達可能な生地を活用され、一緒にプロジェクトに取り組むことを検討いただけるようになりました。
一方、社員同士でもプロジェクトを通して個人の得意なことや好きなことなど、新たな発見がたくさんありました。新規事業であるため、例えば製品を作る事になれば元パタンナーの従業員が活躍したり、SNSへの発信面でも得意な人が担当してくれたり、写真を撮るのが趣味の人が使えそうな写真を提供してくれたりと、以前から各自の特徴を認識していましたが、それを仕事で発揮してもらえる機会はなかなかありませんでしたが、こういうプロジェクトがあるからこそ、集まって得意技を発揮できる場ができたのだと思います。
新しいことを始めるのはとても大変ですが、同じ目的に向かって進んでいく中で、より関係を深められることが社内外問わずとても刺激になると感じています。嬉しい誤算というか、当初からこういった仕組みになるよう狙っていた訳ではありませんでしたが、社内のエンゲージメントが高まったと思います。
SDGsと言っても本音で言えば会社としての持続可能性が一番重要です。メンズ業界は特に状況が悪く、若い人はどんどんファッションとは異なる業界に転職していきがちです。だからこそ、若い人が自分たちで出来る、自分の欲しいものを作る、自分たちがいいなと思うことにチャレンジできる土台が必要で、それが無いと続きません。

■SDGsアクションの推進について課題と感じていることはありますか?
hugcumuプロジェクトの取り組みを数値化できないことに苦慮しています。
小売業のバイヤーからはエビデンスが無い(数値化できない)と採用は難しいと言われます。例えばホホバオイル由来の加工を施したシャツは収穫した実を何グラム使用しているのか、Tシャツを購入すると木がどれだけ植林できるのか、と聞かれる事がありますが納得いただけるほどの数値化は難しい。SDGsはそんな単純なものではなく、関わる人の思いや意識など、見える化できないことの積み重ねです。取り組むことで雇用の促進や緑化に繋がる活動であると理解していただく方でないと難しい。この理念やテーマが広がっていくことが最も重要だと考えています。
そういう事からも持続した取り組みをするためには、まずは認知度を上げることが重要で、そこが課題だと感じています。
プロジェクトを知っていただき、私たちが㈱シモンドの取り組みに共感したように、お客様にも同じように共感いただき、選んでもらえるようにするにはどうしていけばいいのか、引き続き考えていきたいと思います。

■SDGsの推進に際し、関西ファッション連合に期待することはありますか?
SDGsを広げていくのは少しずつでも持続することが大切だと感じています。 私たちも「hugcumu」を通して今後も継続して取り組んでいきたいと思っているので、新しいことを取り上げて紹介してほしいなと思います。
また、SDGsを推進されるお立場から様々なことを教えていただきたい。こんな切り口もある、こんな情報もあるという事を教えていただくことで、我々の目線が変わる可能性もありますし、SDGsに取り組んでいる他社との交流の機会があれば、課題や悩みを相談することも可能なのでありがたい。

■取材者あとがき
取り組みのきっかけはご縁の延長線上だったのかもしれませんが、それをしっかりとプロジェクト化され、その思いをリーダーが受け取って事業として取り組まれていることに驚きました。プロジェクトの趣旨が取引先に更に伝播し、活動の輪が広がっていくのが本当に楽しみです。そしてSDGs活動がビジネスに直結している。まさにSDGsの本質だと感じました。これからも様々な取組みが生まれていくことを期待して注目したいと思います。取材協力ありがとうございました。